2013年11月27日水曜日

フィリップ・アギオン「AA+からの陥落:クルーグマンの間違い」

Philippe Aghion "Perte du AA+ : pourquoi Paul Krugman a tort" (11 novembre 2013 le Monde)

アギオンは内生的成長モデルが専門の経済学者。クルーグマンによるフランス国債格下げ批判については、経済学101邦訳がある(再編集されたものだけど内容はほぼ同じ)。



“Ideological Ratings(イデオロギー的な格付け)”と題した 11月8日付のブログで、クルーグマンはスタンダード&プアーズがフランス国債をAA+からAAに格下げしたことを痛烈に批判している。クルーグマンによれば、この決定は完全にイデオロギーによるもので、それは欧州委員会において広まっているフランスの社会モデルを問題であるとする意向だという。クルーグマンはまた、経済成長の決定要因について知っている者はいないとし、さらには増税を柱とする公的債務の削減というフランスの政策が潜在成長を損なうという証拠はないと主張している。



私はスタンダード&プアーズの擁護者では決してない。2008年、どの格付機関もサブプライム危機の到来を見通していなかった上、何と言ってもトリプルAに値しない金融資産にそれを与えていた。そしてその2年後には、彼らは逆方向に過剰な格付けを与えた。すなわち、過剰に不安をあおり、その結果としてスペインのような公的債務を比較的コントロール下に置いていたユーロ圏の国々を景気後退へと突き落したのだ。

私は極端な自由主義の擁護者ではないし、国家解体の伝道師でもない。何と言っても、最も弱い立場の人々を守り、人々がイノベーションによる雇用の喪失に対応するのを助けるために国家が必要であるからだ。さらに、国家には知識経済やイノベーションに投資するという使命があるからでもある。

しかしながら、少なくとも2つの点についてポール・クルーグマンには同意できない。まず第一は、我々が効果のある経済成長策について何も知らないという点だ。事実は正反対で、財市場における競争の拡大、労働市場の柔軟性の向上、教育や研究への投資増加、より反景気循環的な財政・税政策の実施といったことが、イノベーションと経済成長に対してプラスの効果を持つことが有力な研究によって示されている。

そして、増税のみによる財政赤字削減という政策が雇用と経済成長に影響を与えないという考えにも同意しない。オーストラリア、カナダ、オランダ、スウェーデンといった国とフランスを比較した結果は、実のところその全く逆を示している。比較対象となった国々は、フランスのような大幅な増税を柱とした取組みではなく、支出を削減するために公共事業を再検討することを選んだ。

そうした国々はしたがって、過剰な徴税に訴えることなく財政赤字と公的債務に対処することが出来た。教育や研究といった経済成長をもたらす分野への投資を減らすことなくだ。雇用と経済成長を回復させることで、これらの国は自身の社会モデルを保ち、それと同時に格付機関の力にも左右されないということを可能とした。

スウェーデンの例はとりわけ特徴的だ。1990年のスウェーデンは、積み重なった公的債務(GDPの85%に迫る)、高失業、スタグネーションに陥っている生産という状態だった。その後、国家の抜本的な改革が行われ、中でも170万人を超えていた公的部門による雇用は今日には約130万人となり、民間部門の雇用は280万人から325万人へと増加している。つまり、民間部門の活動の増加は、公的部門の収縮を補って余りあるのだ。

これらの改革によってスウェーデンはOECDの中でも最もパフォーマンスの良い国となり、年間成長は過去3年間の平均で3%を超えている上、世界で二番目に格差の少ない国でありながら財政収支は均衡を回復している。

より一般的な話をすれば、公的支出の削減による調整が経済成長の回復をもたらした一方で、税政策による調整は深刻かつ長期に及ぶ景気後退を招いたことが国際比較によって示されている。

なぜ公的支出の削減が企業の意欲を改善するのだろうか。答えは単純だ。支出削減は課税圧力、とくに資本に対するそれを緩和し、それが投資、ひいては経済活動を活発化させるからだ。またその裏で、公的部門による雇用の削減が需要に対してマイナスの影響を持ちうるとしても、民間部門がその穴埋めをするのであればそうした影響は限定的なものに留まる。それとは対照的に、増税は家計と企業双方の購買力を減少させ、したがってその景気縮小的な効果は長期化することとなる。

ポール・クルーグマンは、構造改革と経済成長の関係について経済学者は何も言えないなどという言説を流布するのをやめて、先進国における経験と近年の経済学研究の双方について見直すべきだ。

フィリップ・アギオン(ハーバード大学経済学教授)



※おまけ:格下げについてブランシャールが批判したという内容。インタビュー原文はネット上では見つからなかったのでトリビューンの記事を載せとく。


La Tribune "La dégradation de la note de la France n'est pas justifiée" (26 novembre 2013)

IMFのチーフエコノミストであるオリヴィエ・ブランシャールは、ドイツの日刊紙であるSüddeutsche Zeitungに掲載されたインタビューの中で、スタンダード&プアーズによる先般のフランス国債格下げについて、「不当だ」と断じた。

「格下げは正当ではないと思う。これは、11月初めのスタンダード&プアーズによるフランス国債の格下げに関し、国際通貨基金のチーフエコノミストが述べたものだ。格下げのニュースはフランソワ・オランドと大多数の国民にとっては晴天の霹靂だった。しかしその後多くの識者による反論が巻き起こった。さらに、市場もほとんど反応を示さなかった。

「フランス経済がまだ完全に回復していないとしても、フランス国債の償還が行われないという特筆すべきリスクは一切見えない」と火曜日付のドイツ日刊紙Süddeutsche Zeitungに掲載されたインタビューで、ブランシャール氏は述べている。

「状況は薔薇色ではないが、深刻でもない。」


スタンダード&プアーズによれば、フランス政府は行き詰まりにあるという。政府の財政、特に歳入を増やすための「改革を行う余裕」がなく、また2012年11月23日に行われた前回の格付け確認以降に「実施された経済施策」が2016年までに失業率を10%以下に引き下げることはないというのだ。

フランスの状況は「バラ色ではないが、一部の人が言うような深刻なものでもない」とオリヴィエ・ブランシャール氏は断言し、フランスは既に財政赤字を大きく縮小させていると付け加えた。

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