2013年10月1日火曜日

財政緊縮は不平等を上昇させる(2)


Martin Anota "L’austérité accroît les inégalités (bis)"(18 septembre 2013) D'un champ l'autre





大停滞期における債務比率の上昇は、多くの政府をして債務持続性や債券市場からの信頼を維持するための財政緊縮策の実施に走らせた。経済がその潜在力へ回復しておらず、完全雇用からはかけ離れているうちは、拡張的政策を続けなければならなかったのにも関わらず、その反対に政府は公的支出の削減や税の引き上げの双方もしくは一方によって、順景気循環的な政策を選択した。こうした施策は経済活動の回復を遅らせ、特定の国に置いては正真正銘の経済収縮さえ引き起こした可能性があるが、それだけでなく公的債務の更なる上昇をもたらした可能性もある。債券市場の安定はつまるところ、欧州中央銀行が最後の貸し手としての役割を完全に果たすというコミットメントによっているだけに、これらの財政再建策は結局のところなおさら空しいものであったように思える。

先般、Laurence Ball, Davide Furceri, Daniel Leigh及びPrakash Loungani (2013)は、予算緊縮の各事例がどのように所得不平等を悪化させたかを調査した。彼らの研究は、財政緊縮策が所得分配に影響を与えた可能性のある様々な経路を明らかにすることに特に力点を置いていた。IMFによる新たなワーキングペーパー、Jaejoon Woo, Elva Bova, Tidiane Kinda及びSophia Zhang (2013)は、財政再建の事例に特に焦点をあてつつ、多数の先進国及び途上国からなるサンプルを用い、過去三十年間における財政政策の所得に対する影響を分析している。彼らの分析結果は、財政再建が多様な経路、とりわけ失業に対する効果を通じて不平等を上昇させる可能性があることを示唆しており、Ballらによる先行研究の結果とも整合的である。Wooらの分析によれば、GDPの1パーセントポイントの財政再建は、平均して0.4から0.7%のその後2年間でのジニ係数の上昇と関係している。こうした不平等の上昇のうち、15から20%は失業の悪化によって説明される。さらに、財政再建が公的支出の削減によるものである場合、税の引き上げによるものと比べて、不平等を悪化させる可能性がいっそう高まる。

Wooらは続いて、税の累進性と社会給付は、可処分所得がより低い層と関係していると指摘する。さらに、中低所得層の教育や労働者訓練を推進することによって、財政政策は所得分配と経済成長に好影響をもたらしうる。高技能職に有利となる技術進歩が不平等を進展させる一方で、進学率の上昇は不平等の減少と関連している。80年代以降先進国によって行われている、社会保障を気前の良さや所得税の累進性を減じるという改革が、その年代以降観察されている不平等の上昇において大きな役割を果たしたという本論文の主張を、上記全ての結果が裏付けている。

昨今の世界危機に関して、このIMFによる研究は(先行研究と全く同様に)、経済が腰の強い成長を取り戻さないままになされた先進国による2010年以降の予算引締めは、所得分配にとりわけ悪い影響をもたらしたことを示唆している。しかしながら、不平等に関する最新のデータは多くの国において2010年中ごろ迄のものであり、こうした効果を推計するためのデータ利用上の制限を著者らは抱えている。それら最新のデータはしかしながら、不平等が最も増大したのは最も大きな失業の上昇を経験した国であり、それよりは程度は小さいながら、最も景気刺激策の自由裁量が小さかった国もまたそうであることを示している(図を参照)。著者らは、利用可能な最新データが2011年のものまであるアイルランド経済に特に注目している。アイルランドでは、危機の初期においては資本所得の減少(そしてその結果としての高所得層の所得減少)、税の引き上げ、所得移転の増加によって不平等が減少した。しかし、景気停滞の深化とその後の財政政策の引き締めにより、不平等はその後に悪化した。この不平等の上昇は、公的債務比率の安定化を難しくする総需要の減退を伴う、経済成長の圧迫要因であっただけに、なおいっそう時期の悪いものであった。これら二つのIMFワーキングペーパーは、したがってNGOオックスファムと結論を一にしている。数日前オックスファムは、欧州において実施された様々な緊縮策は、2015年には2500万人にまで及ぶ人々を新たに貧困に追いやる可能性があるとしている。


図:欧州各国における失業とジニ係数の進展(2007-2010)





緊縮策を遅らせないのであれば、政府が財政再建策の社会的影響を最小化するよう著者らは主張している。そうした場合には、税の累進性や再分配システムが、公的支出削減による所得分配への影響の緩和に貢献しうる。著者らの研究は、Santiago Acosta-Ormaechea及びAtsuyoshi Morozumi(2013)によるそれと全く同様に、財政健全化のための制約を抱えている時にも、政府は教育支出をその犠牲とすべきではないという主張を行っている。





Références

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