2013年10月2日水曜日

急停止と債務デフレ

Martin Anota "De l’arrêt soudain à la déflation par la dette"(29 septembre 2013) D'un champ l'autre


参考:本エントリで参照されているAccominottiとEichengreenのVOX論説が示している、大恐慌前の中欧諸国と昨今のユーロ危機の類似性は、クルーグマンも知らなかったと言って褒めてたりします。ただ、Anton KorinekとEnrique Mendoza (2013)によると急停止(Sudden Stop)後の回復は弱々しい(faible)、とアノタは書いています(原論文が有料で読んでないため詳細は分かりません)が、クルーグマン、あるいは急停止を最初に言い出したギレルモ・カルボ的にはそうでもないようです。


世界経済は金融不安の新たな波が押し寄せる前夜にあるのかもしれない。大停滞、ゼロレベルに限りなく近づいた先進国の政策金利、ユーロ圏のソブリン債危機の深化といった要因により、投資家はより利益のあがる投資機会を世界の他の場所に求めた。多くの新興国経済がそれによって、多大な資本流入の恩恵を受けた。市場は今、近い将来でのアメリカの金融政策の収縮を予測しているために、新興国は流入資本の引き上げによって国際収支上の危機を迎える可能性がある。新興国が現在経済成長の鈍化を迎えていると多くの指標が示しているが、そうした指標はこのシナリオが現実化する方向に動いている。

実際、アナリストたちは20年前と同じような出来事が再現されることを恐れている。すなわち、アメリカによる政策金利の引上げの直後、1994年12月20日からメキシコは後に「急停止(sudden stop)」と名付けられることとなるものを味わった。この急停止は、経常収支の突如の改善をもたらす、海外資本の流入の急激な逆流によって特徴づけられる。それによって海外からの資金調達ができなくなったメキシコ経済は、株価の崩壊、為替の大幅な減価、深刻な経済活動の収縮に見舞われ、その影響はおおむね大恐慌によるものと肩を並べるものだった。さらに、この現象はしばしば突如として波及する。メキシコの危機を例に挙げると、これは1995年のアルゼンチンでの急停止を引き起こし(この伝播は「テキーラ効果」と名付けられている)、その裏では1997年アジア通貨危機がとりわけ韓国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイを襲った。

こうした危機の波及によって、90年代後半には経済学者の関心が金融不安の研究へと向くことになったが、そうした研究はとりわけ発展途上経済に焦点を当てていたのであり、それらの研究者は先進国においては金融システムが十分に発達しており、経済政策も十分健全であるために、そうした事例とは無縁であると考えていた。しかし、2008年から2009年にかけての大停滞において複数ものヨーロッパの国(その当時はスペイン、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル)が味わったのは、正しく資本流入の急停止であった。

Olivier Accominotti及びBarry Eichengreen (2013)は、そうした昨今のヨーロッパの事例と、大恐慌の直前に中欧諸国が経験した一連の騒動との間の多くの類似性を記している。1924年から1928年にかけて、ヨーロッパの多数の国が、2001年から2008年にかけてと全く同じように、それ以外の欧州各国と世界各地から多額の資本流入を得ていた。そしてこの双方の事例において、資本の流入先の各国はその多大な経常収支赤字をさらに悪化させた後に、急停止を経験している(それぞれ1929年と2009年に)。ドイツ、オーストリア、ハンガリーが当時抱えていた経常収支赤字は、今日のギリシャ、アイルランド、イタリア、スペイン、ポルトガルほどではなかったものの、三国が急停止に続いて経験した資本収支の収縮は、今日の事例におけるものよりも大きなものだった。確かに、ユーロ「周辺国」が2008年から2011年にかけて経験した民間資本流入の収縮は、独墺洪三国のそれよりも大きなものだったが、公的資本の上昇が経常収支の調整を和らげたのだ。AccominottiとEichengreenは、1929年から1931年にかけての中欧諸国が(90年代の際の新興国と全く同じように)騒乱に対して何よりもまず外貨準備を支払うしかなかった一方で、ユーロシステムはしたがって集団的な保険を提供したようだとこれを結論している。

Anton Korinek及びEnrique Mendoza (2013)は、1978年から2012年までに先進国、途上国で起こった様々な急停止から複数の事実を類型化したうえで参照している。典型的には、急停止は突然の経常収支ないし貿易収支改善という形をとった、資本移動の急激な逆流によって特徴づけられる。また、それに先行してGDPや消費、投資のトレンドを外れた成長を特徴とする拡大期間があり、貿易収支の悪化、為替レートの増価、株価の急上昇も起こる。急停止の後には、マクロ経済上の主要な集計(GDPで言えば消費と投資)が減少する。そして経済は深刻な景気後退を経験するが、その後には弱々しい回復が伴う。例えば、急停止の2年後において株式市場の回復は、失った分の5分の2でしかない。KorinekとMendozaは、急停止の影響は先進国と途上国では異なると指摘している。前者の回復は後者のそれと比較するとより遅い。また、新興国においては実質為替レートが急激に上昇した後に、急停止とそれに続く為替レートの正に崩壊が起こるという特徴がある一方で、先進国はそのような大きな動きは見せない。

Korinek及びMendoza (2013)によれば、急停止による金融波及メカニズムは、Irving Fisher (1933)が指摘した負債デフレ(debt-deflation) の展開と似通っているという。海外からの借入を行っており、なおかつ担保制約下にある経済を想定してみてもらいたい。拡大期においては、各主体は債務のレバレッジを引き上げ、したがって経常収支は反景気循環的になる。レバレッジが十分な水準にまで上ると、担保制約によって各主体は支出の減少を余儀なくされる。この総需要の下落は実質為替レート、相対価格、株価の崩壊を伴う。株式は担保として用いられているため、その価格の下落は各主体の抱える制約をさらに引締め、さらなる支出の減少を誘発する。したがって経済は、借入能力の下落、支出の下落、株価の下落の三者が互いに互いを引き起こす負のスパイラルへと囚われる。このメカニズムでは、経済主体が自国通貨とは異なる通貨建ての負債(例えば新興国における米ドル…もしくはユーロ圏の国におけるユーロ)を抱えていることが、よりいっそう裏目となる。

AccominottiとEichengreenは、1920年代および30年代における資本の移動を調査し、その決定要因を明らかにすることを試みた。それにより、各国家特有の事情、とくに借入能力は中欧諸国に対する大量の資本流入と急停止の説明とならないことが判明した。その代わりに国際資本移動の鍵となる決定要因は、国際資本市場の状況(借入国内の状況にとって外生的)である。すなわち、AccominottiとEichengreenは所与の金融センターから生じる資本の量と、(訳注;その同じ市場における)長期金利及び市場のボラティリティ―との間の強い負の相関を指摘している。対象としている期間は異なるものの、Eichengreenの結論は、リスクの認知が過去30年間における資本の流れに対して大きな役割を果たしたという、昨今の複数の研究(とりわけHélène Reyの)のそれと整合的である。




参考文献

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