Martin Anota"La croissance américaine est-elle épuisée ?"(17 septembre 2012)
ロバート・ゴードン(2012a, b)では、アメリカにおける長期での成長の動きについて、まずは2007年以前の大きな流れに立ち戻り、その次にアメリカ経済がこの先数十年で辿るであろう成長の道筋を検討している。この分析においては、例え大停滞が潜在成長に対して深刻な構造的影響を与えた可能性があるのだとしても、それは明示的に考慮から除外されている。またこの分析はアメリカ経済に焦点を当てている。というのも、19世紀末以降イギリスに変わって世界経済の中枢、世界の成長の原動力となって最先端技術と生活水準を伸ばし続けてきたのは、まさにアメリカ経済であるからだ。将来もはやアメリカが最先端技術を伸ばしていないとすれば、それは他の国が取って代わって伸ばしているか、そうした伸展が不可能であることが明らかとなり、成長の見通しがはっきりとした形で変化したからだろう。
ゴードンはいくつかの際立った事実を強調している。
1.1750年から2007年までの期間は、経済史上の例外であることが明らかとなる可能性がある。一人当たり実質GDPの成長は、1700年以前においてはほぼゼロだったのであり、GDPはこの時期から加速し始めた。この250年間と同じ速度で将来も成長が続く保証はない。
2.技術先進国における一人当たり生産量の成長は、1750年から20世紀中盤まで加速し、アメリカにおいては1928年から1950年にかけて頂点に達した。生産量の成長はそれ以降減速し続け、2100年には0.2%ととなる可能性がある。1700年以前においては、一人当たりの収入が2倍になるのには数世紀を要したが、アメリカにおける一人あたりの収入は1929年から1957年にかけてのたった28年で2倍となり、1957年から1988年にかけての30年でさらに倍増した。しかし21世紀においてこの成長は、2007年の水準が2倍となるのには2100年までかかるというほどまでにゆっくりとしたものとなる可能性がある。こうした半定常状態への収束は景気変動とは完全に無関係で、構造的な傾向だ。いくつもの先端分野で既に現れているとおり、生産性の増大、ひいては成長を行うのに決定的に重要となるイノベーションの伸展は、収穫逓減の壁にぶつかっている。
3.経済史においては3つの産業革命が存在している。最初は1750年から1830年にかけて起こった。この際の主要なイノベーションは蒸気機関、綿紡績、鉄道だ。その次の革命は1870年から1900年にかけて起こった。主要なイノベーションは発電、内燃機関、屋内の上下水だ。これら2つの革命においては、その経済に対する効果が完全に発揮されるまでに1世紀を要した。第2の革命によって起きたイノベーションは1960年代に経済を再度根底から変革した。70年代以降に観測された生産性の減速は、これらイノベーションによる可能性全部が完全に使われたことで説明できる。
4.第3の産業革命は60年代に始まって90年代にはその頂点に達し、インターネットバブルやニューエコノミーによる楽観論を引き起こした。パソコン、インターネット、携帯電話などがその主要なイノベーションだ。これによる生産性への影響は過去10年でかなりの程度弱まった。単純作業については、70年代から80年代によって機械による仕事の代替が起こった。2000年以降に起こったイノベーションによる生産性や生活水準に対する影響は、比較的にはごくわずかだ。
5.イノベーションの進展とは、最初のイノベーションの潜在力を完全に活用するための、一連のささやかな発明による漸進的な改良と捉えるべき。この進展は、最初の2つの産業革命においては100年かけて起こったのに対し、3つ目の革命においては非常に速く展開した。
6.現在進行中のイノベーションはこれからも生活水準の向上に寄与するが、これまでに比べればその速度は遅い。これは経済活動を引き起こすイノベーションの力が以前よりも弱まるということだけでなく、アメリカ経済がそれに加えて潜在成長力を強く押し下げる6つのマクロ動学的要因を抱えているからでもある。アメリカの成長率は、過去20年間のそれを大きく下回るだろう。さらに、一人当たり実質消費の成長は、下位99%の家計においては輪をかけて弱まる。
ゴードンはここでアメリカの成長の重しとなっている6つの制約を特定している。これら制約は2007年に既に顕在化しているが、今後数十年でより一層激しさを増すだろう。いくつかのものは他の先進国にも通ずるものであり、またいくつかはアメリカ特有のものだ。
1.人口分布の偏りは、過去においては経済発展にプラスの影響を与えたが、今後はそれとは逆方向に働くこととなる特異な事例だ。今日、ベビーブーマーたちは次々と引退生活に突入している。一人当たり労働時間は減少し、したがって一人当たり生産量は生産性よりもゆっくりと上昇することになる。平均寿命の向上が、この経済活動に対するマイナス効果を下支えするだろう。
2.アメリカでは、教育水準の上昇がここ20年頭打ちとなっている。高等教育費用の高騰が学生の負担の膨張を招き、それが低所得層の大学進学意欲を減退させているのだ。アメリカで教育システム達成度の国際ランク、特にPISA調査での後退が起きている。人種グループ間の学習到達度格差は広がっているのだ。ヒスパニックの学習達成度は低いため、教育人口比率における彼らの進展が国全体で見た到達度の下落につながっている。また、格差は男女間でも広がっている。
3.不平等の進展は、大多数の国民から成長の恩恵をはく奪している。1993年から2008年にかけての家計の実質所得の年間成長は平均1.3%であったが、この期間に起きた上昇分の半分以上は上位1%の家計が占めた。中期的に所得格差の拡大を逆転させる、ないし抑制するものは存在しないように見える。
4.グローバリゼーションと情報・通信技術の発展は、途上国の追い上げを加速し、先進国における賃金と実質所得の切り下げ圧力を上昇させる危険な相互作用となる。外注化や輸入は、アメリカの労働者を海外の労働者との競争に直接追いやるのだ。世界経済は、相対的に賃金が高い国にとっては痛手としかならない要素価格の強力な均等化の劇場なのであって、これはヘクシャー・オリーン・サミュエルソンの定理に従うところである。
5.地球温暖化への対応策の実施は、アメリカ経済に影響を及ぼすだろう。アメリカにおける炭素税の導入は、とりわけ燃料価格の上昇を招くことで、それ以外の物へ支出するための家計の予算を削ることとなる。それに対し、中国とインドにおいては依然として、より多量の温室効果ガスの排出を行っているが、環境財政政策によって自らの成長を制約することについては両者ともに沈黙を保っている。そうした方策は、今日の先進国が工業化を行った時期には課せられていなったものなのだ。
6.アメリカの経済成長に対する制約の最後{1} は、政府・民間債務の安定化だ。家計の債務解消は、回復への活力の足枷となっている。政府債務を持続可能な道筋へ引き戻すことも、GDP成長率にとっての重しとなる。
これら6つの大きな流れによる影響は数値で言えばどの程度になるだろうか。この問いに答えるにあたってゴードンは、一人当たり実質GDPの成長がイノベーションによって2007年以前の20年間のそれと同水準、つまり年率1.8%に保たれるという仮定をまず置いている。したがって、イノベーションが近いうちに起こり、インターネットと同レベルの影響を生産性に与えるということを彼は仮定している。こうした楽観的な仮定を置いてさえ、ベビーブーマーの現役引退によって成長率は1.6%に下がり、教育の躓きによってさらに1.4%へと下がる。不平等の上昇が続くのであれば、下位99%の家計の所得成長は年率1.4%となり、成長率は0.9%まで下がる。{2} 次に、グローバリゼーションとエネルギーへの課税強化のそれぞれが成長率を0.2%ずつ切り下げる。最後に、家計による債務解消、税の引上げ、所得移転の削減によって一人当たり実質GDPの成長率は0.2%にまで引き下げられる。{3} 債務の返済があるために、下位99%の家計による実質消費の伸びは実質GDPよりも低くなるだろう。{4}
{1}訳注1; 原文(une ultime contrainte)は「最終的な(究極的な)制約」との意になるが、元の論文では単に6つの逆風の中の最後という意味になっているので、後者に合わせた。
{2}訳注2; 原文は、「家計所得の成長が0.9%になる」という意味の文になっているが、元の論文と照らし合わせると誤りであるので、修正をした。
{3}訳注3; なおゴードンは、これらの数字はsuggestionであり、数字それ自体は重要でないとしている。というのも、この数値は1300年から1700年(つまりは産業革命以前)のイギリスの成長率である0.2%に合わせるように意図的に選ばれている。
{4}訳注4; 原文は、「実質消費の上昇は債務の返済よりもゆっくりとしたものになる」という意味の文となっているが、元の論文と照らし合わせると誤りであるので、修正をした。
参考文献
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