2014年1月4日土曜日

マルタン・アノタ「民主主義は格差を減少させるか」

Martin Anota "La démocratie réduit-elle les inégalités ?" (D'un champ l'autre, 27 decembre, 2013)



民主主義は他の全ての政体よりも富の分配の平等性をもたらすという考えは魅力的だ。政治的権力を少数の手に集中させる制度、つまりまさしく非民主主義的政治体制で見られるような場合においては、そうした制度が格差を上昇させる傾向にあるというのは自然に思える。政治権力を握る集団は事実、国民の犠牲のもとで自らを利する政策を実施することが出来る。アパルトヘイト体制下において、少数の白人は例えば黒人労働者が非熟練労働へ就くことを受け入れざるを得ないような労働市場の法制化を行い、彼らの賃金を引き下げた。したがって政治権力の分配が平等であれば、理屈の上では富の分配もより平等になると思われる。社会全体への投票権の拡大によって、中位投票者を社会の最貧困層の方向へと動かし、また政治的競争を増やすことで、再分配の発展と格差の減少が原理上もたらされるはずである。

しかしながら、アジアの特定の国においては権威主義的体制が敷かれているにも関わらず、比較的平等な分配が達成された。旧共産国家の民主主義への途上においては、格差が強力に上昇さえしたようにさえ見える。実証分析は民主主義と所得格差の関係について、コンセンサスを得るに至っていない。多数の国々における工業部門を観察した結果、Dani Rodrik (1999)は一例として、民主主義は実質賃金の上昇や労働付加価値の拡大と関係しているということを示している。しかし、この分析が民主主義と格差の間のマイナスの相関を示しているように見えるにしても、Rodrikは因果関係については慎重な態度を保っている。つまり、中間階級が大きな(したがって実質賃金が高いという特徴をもつ)国は、民主主義へと向かう、あるいは既に民主主義が採用されている場合にはそうした体制を維持する傾向が強いとも言えるのだ。民主主義と格差の間の有意なマイナスの相関が見つからなかったという研究も複数ある。一部、とりわけMark Gradstein et Branko Milanovic (2004)では、プラスの相関を浮かび上がらせる傾向にさえある。



Daron Acemoglu, Suresh Naidu, Pascual Restrepo et James Robinson (2013) が最近のワーキング・ペーパーで述べたように、民主主義と格差の関係は一見して考えられるよりもずっと複雑である可能性がある。この場合、民主主義は特定の支配者層に取り込まれたり、制限されうる。というのも、し民主化は社会における法律上の権力の分配を揺るがす。しかし格差は法律上の権力の分配のみに左右されるものではないのだ。格差は事実上の権力の分配にも左右される。自らの法律上の権力が落ちていくことに直面した者は、事実上の権力をさらに獲得することを狙うことによって政治過程の支配を維持しようとする。例えば、地方における法の実施の支配や、国家に所属しない武装集団の組織、政党システムを支配下に置くといったことを指向する。民主主義は法律上の制度(特に保守派政党)や事実上の支配者集団による脅迫(特にクーデター、キャピタルフライト、租税回避といった脅迫)よっても制約を受けうる。さらに、民主主義は貧困層よりも中間層へと政治権力を移す可能性があり、そうした場合再分配は中間層のみを利する形で行われうる。極言すれば、格差と民主主義のプラスの相関を見い出すこともできるのだ。つまり、社会の平穏を保つことで自らの体制が疑問視されるのを防ぐ目的で、権威主義的体制のほうが民主主義体制よりも平等主義的な政策を行う可能性もある。

アセモグルらはそこで民主主義、再分配、格差の間の実証レベルでの関係を精緻化を目指した。彼らの分析は財政収支がGDPに占める割合に対する民主主義の有意な影響を示している。彼らは中等教育の割合や、経済構造の変換の程度、とくに非農業部門の雇用及び生産に対するプラスの影響も明らかにしている。しかしながら、民主主義が格差に与える影響は非常に限定的なものであると彼らは指摘する。この有意な関係の欠如は、格差について利用可能なデータの粗悪な質で説明可能かもしれないが、アセモグルらはそうしたことよりも民主主義と格差の関係が非常に複雑であることに理由を求めている。

アセモグルらはさらに民主主義が格差に与える複合的効果の存在を明らかにすることを試みている。実証データは例えば、土地の所有権の不平等が大きい社会においては民主主義が格差を広げる傾向にあることを示しており、アセモグルらはこれを大土地所有者による政治的意思決定過程の支配の証拠と解している。彼らはまた、中間層が比較的裕福である場合に民主主義は格差と税率を上昇させる傾向があるとも指摘する。こうした相関は、民主主義は貧困層への所得再分配を犠牲としつつ中間階級へ利益をもたらすというという考えと整合的だ。最後に、こうした様々な結果からアセモグルらは、民主主義が必然的に格差の普遍的現象をもたらすという考えを退けている。民主主義は再分配と経済構造の変革をもたらし、それによる格差への影響はどちらともいえないものなのだ。



参考文献

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